その1 『ブロックチェーンは世界の貧困を救えるか?』

 

 

世界経済は過去よりずっと成長している。後退など絶対にしていない。
しかし、人々の暮らしは豊かになるどころか、疲弊し、暮らしはよくなっていない。
現在、先進国の生活水準は低下しつつあり、OECD加盟国の勤労所得は伸び悩み、途上国の状況はさらに深刻だ。

特に若者の失業率がかなりの高水準で推移している。
若者の失業は社会全体に悪影響を及ぼす。失業を経験したことがあるなら、
それがどんなに自尊心を傷つけ、幸福を蝕むかを知っているはずだ。
コミュニティから弾きだされた若者は、
豊かになるチャンスを奪われ、富と権力を持つ人たちからどんどん引き離されていく。
これが現代における、豊かさのパラドックスだ。

トマ·ピケティはベストセラーとなった大著『21世紀の資本』のなかで、
格差拡大は資本収益率が経済成長率を上回っている限り格差は今後も縮まらないと論じた。
つまり、働いて得られる賃金よりも、資本を投資して得られる収益のほうが大きいということだ。

 

資本家は働かなくても豊かになり、労働者はいくら働いても彼らに追いつけない。
そして、労働者はいつまでも厳しい暮らしを強いられる。
その解決策として、ピケティは資産に対する累進課税を提唱しているが、別に目新しいものではない。

格差をなくそうという議論は世界中で叫ばれているが、ほとんどは富の再分配の域を出ず、
結局は金持ちに課税して貧乏人にお金を配ろうという話であある。
しかし、その恩恵は金持ちに大きく偏っているという点を見逃している。
同じ国の中でも、大金持ちとそうでない人との隔たりはどんどん広がっているのが現状だ。
わずか、1%の人が世界の富の半分を所有する一方、
1日2ドル以下の暮らしをする人が世界に35億人いるというのがリアルな現実世界だ。

ピケティは資本主義を問題にするが、資本主義のしくみが悪いのではない。
資本主義は、富と豊かさを生むためのすばらしい道具なのだ。
問題は、つぎはぎだらけの金融システムのせいで、
そのメリットにふれることすらできない人が多すぎるということだ。

解決すべきは、貧しい人が金融や経済から排除されているという状況だ。
OECD加盟国でも、15 %の人は金融機関とのつきあいがなく、
メキシコなどでは、銀行口座を持たない人が国民の73%にのぼる。
アメリカでさえ、16歳以上の国民の15%、3700万人が銀行講座を持たずに生活している。
金融サービスの不均衡は、容易に社会的危機を引き起こす。

2014年の世界経済フォーラムでも、地球温暖化や戦争や病気などを抑えて、
格差がもっとも深刻なグローバルリスクであると指摘された。

ブロックチェーンは、この状況を変えられるはずだ。
金融サービスへのアクセスを大きく広げ、新たな起業の形を可能にすることで、
銀行口座を持たない数十億人の夢やアイデアを現実にできるかもしれないからだ。

 

次回は、もともと仮想通貨「ビットコイン」の基幹技術として発明された「ブロックチェーン」技術が、
その斬新性が脚光を浴び、現在も閉鎖せれている金融の世界を、
何故、オープンなものにするイノベーションとして期待されているかを説明する。

その2 「ブロックチェーンが金融を再編する」

S.M


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