あなたが「中東」と聞いて、心のなかに何かしらの懸念が浮かぶようなら、その感覚はもうすでに古い。古いうえに、陳腐で、月並みだ。そういう人は恐らく、「日本からイノヴェイションの風土がなくなっている」などといった見出しをメディアで見かけても、自分は関係ない、うまくやっている、屈指の技術をもっていると涼しい顔をするかもしれない。

そういう感覚が普通になっているから、この国の存在感は少しずつ、しかしはっきりと薄れてきた。いま問うべきは、「自分はそのまま、どっかりと椅子に座り続けるのか?」ということだ。

中東のビジネスハブ」と聞くとアラブ首長国連邦のアブダビなどを連想するかもしれない。しかし『WIRED』日本版本誌VOL.22でお届けしたように、イスラエルの首都・テルアヴィヴでも、イノヴェイションの面はもちろん、街としても、さらにたくさんのエキサイティングなことが起こっているのはご存じだろうか。

「もたざる国」の戦略

「日本ではあまりみられない、政府によるイノヴェイション支援は、イスラエルを知るうえで大事なことだ」。8200部隊以外にも、政府がスタートアップ文化に関わるという要素がどのように作用しているかを、ぜひ参加者に見せたいとヨアヴとニールは強調する。そのためにツアーの訪問先のひとつとして選ばれているのが、イスラエル政府から手厚いサポートを受けて生まれた施設、「Nielsen Innovate」だ。

その名の通り、米リサーチ企業ニールセンが設立したこのインキュベーション施設では、1ドルを投資するたびに政府が4ドルを補填する「リスクシェア」のモデルが採用されている。政府主導でイノヴェイション推進がどのように行われているかを伺い知れるうえに、ほかの中東地域のように資源に乏しいイスラエルが、どうやって中東を牽引する経済、文化、ダイヴァーシティのハブになったかを理解できるはずだ。

ほかにも、イスラエル最大のテックカンファレンス・DLD Tel Aviv 2017、ライドシェアを提供する企業・Via、自律走行車のセキュリティを専門とするKarambaや、クラウドファンディングのOurCrowdなども行き先としてピックアップされている。

ものづくりの「正反対」

前述の通り、イスラエルはほかの中東地域とは違い、潤沢な資源を原資とした発展を見込める国ではない。国としての歴史も浅い。ニールが言うに、この国にとっては「ハードウェア製造業を目指すのは無謀すぎた」。それゆえ、イスラエルは日本をはじめとするものづくり先進国の企業とさまざまな協力関係を築いている。

しかし、イスラエルがその先にみるのは、既存のマーケットへのアプローチではない。日本のような国に存在するトラディショナルな企業に、自分たちの新しいアイデアを“ねじ込む”ことによって、これまでにない革新を起こしすことだ。

引用:TEXT BY MINA GONOKUCHI

 

『WIRED』UK版が制作しているドキュメンタリーシリーズ「Future Cities」でも、イスラエルをフィーチャー。「Holy Land: Startup Nations」というタイトルのフィルムでは、多様性のなかでスタートアップに取り組む人々が描かれている。